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大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)113号 判決

控訴人 東西上屋倉庫株式会社

右代表者代表取締役 渡辺清治郎

右訴訟代理人弁護士 坂田十四八

被控訴人 兵機海運株式会社

右代表者代表取締役 千賀恒一

右訴訟代理人弁護士 池上治

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「一 原判決を取消す。二 被控訴人は控訴人に対し一八五二万二三八三円及びこれに対する昭和五五年四月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張関係は、次に訂正・付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用し、証拠関係は、本件記録中の原審及び当審における証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(訂正)

一、原判決二枚目表九行目の「受諾した」の次に「(以下「本件寄託契約」という。)」を挿入し、裏一、二行目の「指図し、被告は、直ちにこれを承諾した」を「指図した(以下「本件出荷停止の指図」という。)」と改め、三、四行目の「ないし被告の右承諾」を削除する。

二、同三枚目表六行目の「昭和五五年三月三一日前」を「遅くとも昭和五五年三月三一日までに」と、裏三、四行目の「認め、被告がこれを承諾したことは否認する」を「認める」と、五行目の「否認する」を「認める」とそれぞれ改め、八行目を削除し、一〇行目の「倉庫寄託約款」の次に「(以下「本件倉庫寄託約款」という。)」を挿入し、一二行目の「と定めている」を「旨、また被控訴人の港湾運送約款(以下「本件港湾運送約款」といい、本件倉庫寄託約款と合わせて「本件倉庫寄託約款等」という。)一三条は、書面をもって確認されない口頭、電話、電信による委託若しくはその他の通知の遵守については、被控訴人はこれを担保しない旨それぞれ定めている」と改める。

三、同四枚目表三行目の「求めた」を「求め、右書面が送付されないかぎり、出荷の停止はできない旨伝えた」と、六行目を「抗弁事実のうち、本件倉庫寄託約款四条及び本件港湾運送約款一三条は被控訴人主張のとおりの文言になっていることは認めるが、その余の事実は否認する。」とそれぞれ改める。

(控訴人の主張)

一、本件ワイヤー・ロッド(以下「本件ロッド」ともいう。)の輸入者(所有権者)がクムホであり、倉庫業者である控訴人は、クムホとの間で本件ロッドについて寄託契約(以下「原寄託契約」という。)を締結したが、関西地方に出張所も倉庫も有していないので、被控訴人に本件ロッドを再寄託したものであり、被控訴人は、実質上、控訴人とクムホとの原寄託契約関係を代行するにすぎないものであるところ、本件倉庫寄託約款等が原寄託契約の内容になっていなかったから、被控訴人と控訴人間の本件(再)寄託契約においても、本件倉庫寄託約款等がその内容とはなり得ない。仮にそうでないとしても、本件寄託契約は、本件倉庫寄託約款等が掲示されず、また本件倉庫寄託約款等に定める寄託申込書ないし陸揚寄託書の授受がないまま、電話による口頭申込と承諾により締結されたから、本件倉庫寄託約款等が適用される余地はない。

二、仮に本件寄託契約に本件倉庫寄託約款が適用されるとしても、同約款四条は、寄託者が被控訴人から、将来意思表示をするときは書面でせよと予め通告されていたときに限り適用されるものと解釈されるところ、控訴人は、被控訴人から予め出荷停止の指図は書面でするよう要求されていなかったから、右約款四条の適用はない。

三、本件倉庫寄託約款四条ないし本件港湾運送約款一三条が本件寄託契約に適用されるとしても

1.控訴人が本件出荷停止の指図をしたときに被控訴人は直ちに出荷停止を承諾したものである。

2.仮に右事実が認められないとしても、被控訴人は、控訴人から昭和五四年一月二九日二〇〇トン、同年二月一六日一〇〇トンの各出荷指図の意思表示をいずれも口頭(電話)で受け、右各指図に基づき計三〇〇トンを出荷し、同月二〇日クムホに対して、被控訴人が受託した本件ロッドの総量から右三〇〇トンのみを控除した五三二・四五〇トンの在庫がある旨報告したものであるから、被控訴人と控訴人間において、本件倉庫寄託約款四条ないし本件港湾運送約款一三条の適用を排除する明示または黙示の合意が成立したものである。

(被控訴人の主張)

控訴人の前記主張はすべて争う。被控訴人は、控訴人から電話で本件出荷停止の指図を受けた後も出荷停止の指図書の送付を控訴人にくり返し求めたにもかかわらず、控訴人は何故かその送付を渋り、漸く昭和五四年二月二二日になって始めてそれを送付したものである。

理由

一、請求の原因1ないし3の事実、控訴人が昭和五四年一月二七日電話により被控訴人に対しツシマに対する本件出荷停止の指図をしたこと、ところが被控訴人は本件ロッド二六二トン余を出荷して仕舞ったことは、当事者間に争いがない。

二、そこで、被控訴人主張の抗弁について先ず判断するに、本件倉庫寄託約款四条及び本件港湾運送約款一三条の文言が被控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、右事実に、原本の存在及び〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められ、原審証人松井茂の証言のうち右認定に沿わない部分は信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1.本件ロッドは、被控訴人から更に藤原運輸株式会社泉北事業所(以下「藤原運輸」という。)に再寄託され、その泉北及び汐見倉庫において保管されていた。

2.控訴人は、昭和五三年一二月九日クムホから本件ロッドのうちチャンピオン一号の三五五トンをツシマ(又はその代理人)に渡すよう依頼した荷渡依頼書(甲第一六号証)をファクシミリで受取ったので、同日被控訴人に対し右荷物をツシマに出庫するよう指図した出庫指図書(乙第一〇号証の二)を郵送したところ、被控訴人はこれを受取り、同月一二日ツシマがクムホから受取った右荷渡依頼書の写(同号証の一)とともに、被控訴人に対し右荷物を久保商店に渡すよう依頼した荷渡依頼書(同号証の三)を持参呈示したので、これを承認して、同日再寄託先の藤原運輸に対し右荷物を久保商店(又は持参人)に渡すよう指図した荷渡指図書(同号証の四)を発行し、また、控訴人は、同月二七日クムホから本件ロッドのうちチャン・スン一号の五〇〇トンをツシマ(又はその代理人)に渡すよう依頼した荷渡依頼書(乙第一一号証の一と同様のもの)をファクシミリで受取ったので、同日被控訴人に対し右荷物をツシマに出庫するよう指図した出庫指図書(同号証の二)を郵送したところ、被控訴人は、これを受取り、同月二八日ツシマがクムホから受取った右荷渡依頼書の写(同号証の一)とともに、被控訴人に対し右荷物(実数量四九九・二六〇トン)を久保商店に渡すよう依頼した荷渡依頼書(同号証の三)を持参呈示したので、これを承認して、同日再寄託先の藤原運輸に対し右荷物を久保商店(又は持参人)に渡すよう指図した荷渡指図書(同号証の四)を発行した。

3.本件倉庫約款は倉庫業法八条に基づき運輸大臣へ届出の後実施に移されたものであり、その四条に、被控訴人は寄託者が被控訴人に対して通知、指図その他意思表示を行なうときは、書面によることを要求することができる旨を定めており、また本件港湾運送約款は、港湾運送事業法一一条に基づき運輸大臣の認可を受けたものであり、その一三条は何れの側からも書面をもって確認されない口頭、電話、電信による委託もしくはその他の通知の遵守については、被控訴人はこれを担保しない旨定めており、また本件倉庫寄託約款等は被控訴人の事務所の入口に掲示されている。

4.被控訴人大阪支店の橋爪課長は、昭和五四年一月二七日電話により控訴人の松井部長からツシマに対する本件ロッドの出荷を一切止めるよう本件出荷停止の指図を受けた際、出荷停止の指図書がない限り出荷は止められないから、直ちに指図書を送ってほしい旨依頼したが、その後右指図書の送付がないため催促したところ、控訴人は、クムホから出荷停止の指図書が来ないから独断では出せない旨答えたものの、一方、クムホに対し出荷停止の指図書を至急送ってほしい旨申し出たが、クムホの金次長は電話による指図は有効であると考えてこれに応じなかった。

5.被控訴人は、同年一月二九日付保管料明細書(甲第一五号証の一ないし三)で控訴人に対し、(一) チャンピオン一号の同月二六日現在の在庫数量は一九八バンドル 三六四・七五〇トン、(二) チャン・スン一号の同月二七日現在の在庫数量は四四一バンドル 四六八・三〇〇トンである旨の報告をした。

6.そして、被控訴人は、控訴人から、本件ロッドのうち、同年一月二九日二〇〇トン、同年二月一六日一〇〇トンをそれぞれ電話により出荷するよう指図を受けた。なお、同年二月二〇日までの間に、被控訴人が藤原運輸宛に発行した前記荷渡指図書二通(乙第一〇、第一一号証の各四)により、本件ロッドが右計三〇〇トンの他に計約二六〇トン出荷されていた。

7.かねてクムホのため本件ロッドの販売に協力していた被控訴人の橋爪課長は、同年二月二〇日クムホ大阪支店でクムホの金副社長、金次長と会い、お礼の言葉を受けた際、金次長から本件ロッドの在庫数量は五三二・四五〇トンですかと尋ねられたのに対し、正確な記憶もないのに、多分それだけある筈ですと答えたが、帰社後直ちに、本件ロッドの在庫数量を調査したところ、約二七〇トンしかないことが判明したので、クムホ大阪支店に訂正のための電話をしたが不在であったので、控訴人の松井部長に対し本件ロッドの在庫数量は約二七〇トンであって、クムホにした報告は間違いであることをクムホに伝えてほしい旨依頼の電話をし(同月二二日までに控訴人からクムホに右訂正のための電話がなされた。)、翌二一日被控訴人大阪支店の大阪課長と一緒に控訴人の松井部長を訪ねて、前同様の事情を説明するとともに、出荷停止の指図書がないと出荷が止められないから直ちに右指図書を出してほしい旨要望したところ、その翌二二日控訴人から出荷停止の指図書を航空郵便で送った旨の電話を受けたので、同日久保商店に対する本件ロッドの出荷を拒絶し、その翌二三日右出荷停止の指図書(乙第一号証の一、二)を受取った。

右認定の事実によると、本件倉庫寄託約款等は本件寄託契約に適用があり、本件倉庫約款四条及び本件港湾運送約款一三条は、被控訴人は寄託者が被控訴人に対し通知、指図その他の意思表示を行なうときには書面によることを要求できることや書面によらない意思表示については被控訴人は遵守の責任がない旨定められているところ、被控訴人は控訴人から電話で本件出荷停止の指図を受けた際、控訴人に対し書面によることを要求したにもかかわらず、控訴人はそれに応じなかったものであるから、本件出荷停止の指図はその効力を生じなかったものというべきである。

三、そこで、控訴人の主張二について判断するに、本件倉庫約款四条の文言自体からしても、被控訴人が寄託者に対し予め通告しておかなければ、意思表示を書面によることを要求できないものとは到底解することができないから、控訴人の右主張は採用できない。

四、次に、控訴人の主張三1については、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって前記二4に認定の事実からすると、被控訴人は出荷停止の指図書がない限り出荷は止められない旨述べて出荷停止を拒絶したことが明らかであり、控訴人の主張三2については、前記二2及び6認定の事実からすると、被控訴人は同年一月二九日二〇〇トン、同年二月一六日一〇〇トンを出荷したが、右各出荷は控訴人の電話による出荷指図に基づくものではなく、出庫指図書(乙第一〇、第一一号証の各二)に基づいてしたものであることが明らかであり、また前記二7認定のとおり、被控訴人の橋爪課長はクムホの金次長から本件ロッドの在庫数量を尋ねられた際、正確な記憶もないのに間違った返事をして仕舞ったものであるにすぎないから、右各事実をもって、被控訴人と控訴人間において、本件倉庫寄託約款四条ないし本件港湾運送約款一三条の適用を排除する明示又は黙示の合意が成立したものとすることができない。

五、そうすると、本件出荷停止の指図はその効力を生じないものというべきであり、また、被控訴人はその港湾運送約款一三条により本件出荷停止の指図を遵守すべき義務がないといわなければならない。

六、以上の次第で、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由のないことが明らかであるから失当として棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 長谷喜仁 下村浩蔵)

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